今年の特殊な出題範囲設定により、かなり易化してしまった「都立日比谷」に比べ、毎年難解な大問を一つ用意する「都立西」の場合は、ほぼ例年通りのレベルだったと言えるでしょう。
ただ、その中の論証問題の【学校提示の模範答案】には、釈然としないものを感じざるを得ませんでした…。
中学課程においては、命題の真偽を論証する方法を正式には学んでいないとは言え、西高を狙う受験生ならば「背理法」くらいは“かじっている”はずで、論理構築のための素養は十分に備わっているはずです。
その受験生達が、この模範答案を見てどう思うでしょうか。
http://www.nishi-h.metro.tokyo.jp/09nyushi/mondai.html
この方法では論理が正しく構築できないことは理解できるでしょうし、だからこそこのような論証を試みようとは思わなかったはずです。
とは言え「記述式問題」なので、何らかの部分点狙いの“ダメもと”で書いてみた人が、思わぬ点をもらって喜んでいるかもしれません。
【問題】(概要)
3以上の自然数Nを、2つの自然数x,yの和、つまり
N=x+y(x>y)
と表す。
このxとyの積xyが2つの自然数m,nの平方の差、つまり
xy=m×m-n×n
と表せる場合のNについて考える。
このとき、
「Nが偶数のとき必ずxy=m×m-n×nと表せる」
ことが正しい理由を説明せよ。
【学校提示の模範答案】
N=x+yについて、xy=m×m-n×nより
xy=(m+n)(m-n)
となる。
x,y,m,nは自然数で、
xy>0,m+n>0なのでm-n>0
となる。
また、m+n>m-nである。
x>yなので、
x=m+n,y=m-n
とすると、
m=(x+y)/2,n=(x-y)/2
となる。
ここで、m,nが自然数となるには、
「x+yとx-yがともに偶数」
とならなければならない。
「x+yとx-yがともに偶数」となるのは【表】より、
「x,yがどちらとも偶数か、どちらとも奇数」
の場合である。
このとき、N=x+yよりNは偶数となる。
設問の文言が“証明せよ”ではなく“説明せよ”となっているところが、中学課程への配慮なのでしょう。
(※途中の設問にて完成させる【表】を証明なしで使ってよいとしていることも関係していますが…。)
とは言え、そもそも出だしからして
「命題の逆」
を論証しようとするスタイルとなっており、これを真だと言えたところで、
「命題が真であることの証明」
にはならないことは明らかです。
高校課程の勉強をしていなくとも、西高の受験生ならば、この“論理構築の違和感”には気づくはずです。
さらには、
「x>yなのでx=m+n,y=m-nとすると~」
の件は、明らかに“仮の設定”でしかありません。
この仮定のもとで論理を展開したところで、何の意味もありません。
(※「x=(m+n)(m-n),y=1の場合」や「全く別のx,yを考えることの可否」に言及する必要があります。)
では、「どのように簡潔に論証すれば良かったのか?」については、どうも思い浮かびません…。
この設問が高校入試問題として適切だったのか否かを、学校サイドは検証すべきではないでしょうか。