数学カフェjr.

「知っておいてほしい」又は「ちょっとオモシロイ」初等数学を、高校受験をする又は中高一貫校在学の中学生を中心に、小学生~大人の方に向けてお伝えしていきます。

「順位の決め方」がちょっとオモシロイ“スポーツクライミング複合”

「スポーツクライミング複合」という競技が、先日の東京五輪2020において初めて採用されました。

そして、この競技の日本におけるレジェンドのような野口啓代さんは、この大会をもって現役を引退することを表明していました。

大会が1年延期されてどうなるのか…と心配していましたが、「女子複合」において見事に銅メダルを獲得しました。

しかも次世代エースの野中生萌さん(銀メダル)と揃って表彰台に立ち、五輪という晴れやかな舞台でバトンが渡されたようで、非常に喜ばしい出来事の一つでした。
※競技後のインタビュー→
https://www.joc.or.jp/games/olympic/tokyo/news/detail.html?id=14014


「スポーツクライミング複合」とは、“壁を登る”3種の複合競技です。

決勝では、
壁を登る速さをデュアルレースで競う「スピード」
3種の壁の完登数を競う「ボルダリング」、
1つの壁をどこまで登れるかを競う「リード」
の3種目を8人で競います(予選では実施方法が異なります)。

それぞれの競技形態が異なるので、総合順位の決め方がちょっと変わっています。


例えば「体操/総合」では、各種目の点数を単純に加算して、一番点数が高い人が優勝ですね。

アスリート側は自分の結果がそのまま順位に反映されますし、観客側も素直に納得のいく決め方ですね。


冬季の「ノルディック複合」では、前半のジャンプの飛距離点の差を、後半のクロスカントリーのスタートにおけるタイム差に変換し、最初にゴールした人が優勝となります。

この場合は、前・後半の競技結果の数値単位が全く異なりますし、そもそも最大と最小を競う双方の結果を単純に加算すること自体がナンセンスですね。
割合で換算しようとしても、それぞれの限界数値を固定しにくいので難しいですね。

よって、上記のように順位を決める訳ですが、それによって観客側は結果がわかりやすい上に、最後はハラハラドキドキできるので、レースとして盛り上がりやすくなりますね。

但し、アスリート側としては、飛距離を左右する板の長さの決め方や、飛距離点差をタイム差に変換する割合などで、「そもそもの体格差が有利不利につながってしまう」などの問題はあるようです。


では、全ての競技形態が異なる「スポーツクライミング複合」ではどのように総合順位を決めるのでしょうか。

この場合も、最小と最大を競う競技が混在しているので、単純に結果を加算して決める訳にはいきませんね。

そこで、“各種目における順位”に着目した訳です。

それを、
「全て加算した数値が最も少ない人が優勝」
としても問題はないでしょうが、この競技においては、
「全て掛け合わせた数値が最も少ない人が優勝」
としています。

そうすることで、どのようなことが起こるのでしょうか。


例えば、(スピード、ボルダリング、リード)の各順位が、
A;(4位,3位,3位)
B;(2位,4位,4位)
だったとすると、
A;4×3×3=36点
B;2×4×4=32点
となるので、
「Bの方が総合順位が上」
となる訳です。

つまり、
「同種目の順位ではAの方が2種目で上位」
であるにもかかわらず、
「Aの方が総合順位が下」
となる訳です。

もし、“順位を加算”して総合順位を決めるとすると、2人とも10点となるので、同種目の順位を加味すると、「Aの方が総合順位が上」となったでしょう。


さらに、この結果に至る経緯を考えてみると、観客側からすると盛り上がるであろうことは想像に難くありません。


各種目の順番は、(スピード→ボルダリング→リード)となります。

しかし、単純に「最後のリードでどこまで登れば勝てるか」が見極めにくいのです。

Aの方が競技順が先で、Aが3種目終えた時点で(4位,3位,1位)だったとしましょう。

するとBは(2位,4位)ときているので、「Aを上回るには1位になるしかない」と思いきや、そうとは言い切れないのです。

Bの競技順が最後であればその通りなのですが、
「Bの後にリードでAを上回る可能性がある人がまだ2人残っている」
ならば、
「Bが競技を終えた時点でリード2位」
であっても、最初の例のようにAの総合順位を上回ることもあり得るのです。

但し、最終的に「リードでA;2位,B;3位」となれば2人とも24点で、Aの方が総合順位が上となります。
(※実は、五輪で野口さんは(4位,4位,4位)で総合3位、総合4位となった人は(1位,8位,8位)で同点でした。)


このように、最後に逆転劇もあり得るような、観客側をハラハラドキドキさせる要素を多分に含んだ順位の決め方と言えるでしょう。

一方、アスリート側にとっては、
「各種目で他者に大差で勝つ必要はなく、僅差でもいいからとにかく他者を上回る」
という勝負強さが不可欠で、
「1種目でも1位をとることが優勝へのアドバンテージ」
となり、逆に
「かなり不得手な種目が1つでもあると優勝を狙うには厳しくなる」
ものの、
「1種目も1位がとれなくても優勝の可能性はある」
という順位の決め方でしょう。


この競技を熟知している訳ではないので、もしかしたら見当違いのことを書いてしまっているかもしれません(※詳細にはまだまだ色々な優劣の決め方が定められています)。

しかし、数学の問題として何かに使えそうな順位の決め方だったので、今回取り上げてみました。

例えば、
「必ず総合優勝できる各順位の取り方」
を考えたとき、各順位の“和方式”と“積方式”ではどのように異なってくるでしょうか。
「全て1位」が総合優勝であるのは当然として、他の場合においては違いが出てきます。

オモシロくなりそうなのは、途中経過におけるその後の展開に関する問題でしょう。


なお、他に「セーリング」競技においても、同様の順位の決め方をするようです。