例えば、
「水の入った水槽に様々な立体を様々な向きで沈め、水深がどうなるから…」
という、“受験算数”を学んでいると、必ずといってもいいくらい出くわす問題がありますね。
しかし、中学に入って「数学」を学び始めてみると、そのような問題に取り組む機会はほとんどありません(“ダイアグラム問題”としてくらい…)。
そういった“受験算数でしか出会わない”ような問題への対処法を、中学受験生たちは日々一生懸命学んだり、覚え込まされたりしています。
基本的には「方程式を用いて解く」方法をとれないため、あれこれとアクロバティックな対処法(主に“比”を活用)を習う訳ですが、言ってみれば“解く前の段階”で色々と工夫が必要となり、そのために頭を使うことが多くならざるを得ないのです。
「えーっと、これは確か“○○算”を使えばいいから…」
そうすると、あまりにも多くのパターン別の対処法が存在するため、頭の回転があまり速くないような場合は、頑張って覚え込むか、反射的に対応できるように量で慣れさせるか、になってしまいます。
このような状況を続け中学受験に挑んだ場合の弊害については、今までにも色々と記してきているので、そちらを参照してみてください。
(→「総論」カテゴリーに分類してあります。)
端的に言えば、
「受験算数は数学を学ぶための“必須学習”ではない」
ということです。
思考の発展段階がフィットしてさえいれば、頭の回転を速くすることに寄与する部分は大きいとは思いますが、「小学生の段階でなければ遅い…」なんてことはありません。
数学を学び進めていけばわかってくることなのですが、
「いかに得られた情報を用いて次のステップに生かすか」
というように何段階も積み重ねた末の“詰めの段階”でこそ、頭をフル回転させることが求められます。
解く前の条件整理は、
「方程式or不等式を立てる」
ことでサラッと通過するべきものです。
(それは単なる入り口に過ぎず“本題”ではないのです。)
つまり、数学を習い始めさえすれば、難なく通過できるものなのです。
しかし“受験算数”ではそれが不可能なので、
「いかにその代替策をとるか」
が本題のような形となってしまい、あれやこれやと最初の段階から頭を駆使せざるを得ないのです。
そんな初期段階から頭をフル回転させていると、肝心の本丸に攻め込む前に疲れ果ててしまうでしょう。
例えば次のような問題に、皆さんならどのように取り組むでしょうか。
「底面が1辺16cmの正方形」の直方体の水槽に水が入っています。
そこへ、
「底面が1辺4cmの正方形である直方体のおもりA」
と
「底面が1辺12cmの正方形である直方体のおもりB」
を、
「水槽とおもりの各底面が平行」
になるように縦に重ねて水槽に沈めます。
すると、沈める前に比べて水面が7.5cmだけ上がり、おもりはちょうど水面下に隠れました。
おもりAとBが、
「正方形底面に対する高さが等しい」
とすると、
「2つのおもりを沈めたときの水深」
を求めてみましょう。
1次方程式さえ学んでいれば、
「おもりの高さをx」
とおいて方程式を立てて解いていくと思います。
その際、何に着目して方程式を立てるかは人それぞれでしょうが、一番簡単なのは、
「AとBの体積の合計=16×16×7.5」
ですね。
これを解くと簡単に、
「x=12」
と求まるので、
∴水深=2×12=24cm
中学受験生は、
「おもりの高さが等しい」
ことから、
「おもりの底面積比=おもりの体積比」
を用いて高さを求めます。
この設問内容ならば、上記の展開にもっていくのも簡単でしょうが、
「おもりAが下の場合」
と、
「おもりBが下の場合」
で、おもりが水面から飛び出ているときの水深を求めさせるような設問になると、
「逆比」
を用いて解くしかなく、比が苦手な中学受験生だと手が出せなくなってしまう場合も多いことでしょう。
しかし、1次方程式さえ学んでいれば、
「水の容積とおもりの体積の合計は不変」
に着目して方程式を立てて、誰でも難なく解いてしまえるのです。
「受験算数」は、中学入試でライバル達に勝ち抜くために“仕方なく”通過せざるを得ない単なる関門でしかなく、それをマスターすることが将来へ向けての強力なアドバンテージとなる訳でもなく、逆に
「知らない方が素直に数学を学び進められる」
と捉えておいた方がいいくらいのものでしかありません。