数学カフェjr.

「知っておいてほしい」又は「ちょっとオモシロイ」初等数学を、高校受験をする又は中高一貫校在学の中学生を中心に、小学生~大人の方に向けてお伝えしていきます。

“受験算数”を全てのこどもには勧めない理由

【問題】
Aさんが10歩で歩く距離を、Bさんはいつも8歩で歩きます。
Aさんが625歩進んでから、Bさんが同じ地点からいつもと同じ歩幅で、Aさんの1.5倍の速さで追いかけました。
BさんがAさんに追いつくのは、Bさんが出発してから何歩進んだときですか?
但し、2人はそれぞれ一定の歩幅・速さで、同じルート上を歩くものとします。


「歩幅と歩数」を用いて解く、中学入試においては一般的な分野の問題です。

上位向けの問題ではあるので、苦戦する受験生も多いかもしれませんが、“受験算数”が得意であればパッと解いてしまうでしょう。

様々な問題を解くための“知恵”の原理をしっかり理解し、それを使いこなすことに習熟しているからです。


一方、大人がパッと解くことも厳しいのではないでしょうか。

この設定だと、
「方程式を立てて解く」
という流れにスンナリとはもっていきにくいからです。


冒頭の問題は、
“中学入試だからこその問題”
であって、
“知恵を知り尽くし使いこなせる者”
をあぶり出すためのものです。

それは、上位の者が“すくいとられる”ために必要な知恵であって、小学生全員が習得すべきものではありません。

そしてその“知恵”は、その先の「数学」を学んでいくための土台となるものではなく、苦手な場合はむしろ一旦忘れ去ってくれた方がいいくらいなものなのです。



参照→「なぜだろう?」と受験算数
https://mcafejr.hatenablog.com/entry/2020/02/27/171508



中学課程以降の学習の基本となるのは「数学的な考え方」です。

「算数」はその準備段階としての教科なので、当然「数学的な考え方」を直接的には教えていません。

一方「中学受験」隆盛の流れから、いかに篩にかけるかということで、入試問題においては“こねくり回した”ような内容にならざるを得なくなってきているのも当然の成り行きでしょう。

それに対応するために存在するのが、様々な知恵を習得し使えるようにする“受験算数”です。

いわば、
「基本を身につける前に知恵を学んでいる」
訳で、歪みが生じているような状態なのです。


とはいえ、様々な論理を理解することに長けた早熟なこどもにとっては、割り切って考えることができるので問題とはなりません。

しかし、発達途上にあるにもかかわらず、様々な事情から
“トップレベル中学合格の使命”
を課せられたこどもはどうなるでしょうか。

“合格実績がほしい進学塾”側の対応とも相まって、
「対処法をパターン化して覚える」
などして、とにかく得点だけはできるように、
“本筋ではない虚しい努力”
を重ねることでしょう…。

そして中学入学後、その対処法が身についてしまったが故に切り換えができないでいると、“知恵”どころか「数学的な考え方」を学んでいく上での“障害”とさえなってしまうのです…。


“受験算数”以外の教科については、中学受験勉強の際の知識が中学以降もそのまま活かせるので、その側面も考慮する必要はあるでしょう。

しかし、「受験算数」だけは、こどもの発達度合いに応じて、どうしても“向き不向き”が存在してしまうのです…。

「受験算数」にどうしても馴染めない場合は、中学受験することの是非を再考してみるべきだと思います。

それでもなお、
「受験算数だけクリアすれば志望校合格が可能になるのだが…」
というのであれば、中学入学以降に適切な
“「受験算数」脱却リハビリ”
をお子さんに施してあげましょう。



参照→“受験算数”だけが苦手なお子さんへの注意点
https://mcafejr.hatenablog.com/entry/2020/09/28/143103



※冒頭の問題を小学生は、
「速さの比=距離の比」
を用いて、
「1500歩」
と解いてしまいます。

ここにもし、
「速さの比は時間の逆比」
などを考慮する条件設定が加わってくると、受験算数が苦手なこどもはお手上げ状態になるでしょう…。


ご存知のように、小学生は基本的に
「方程式を立てて解く」
という概念で問題に対処しませんね。

ですから、条件設定が複雑になってくると、
「比をアクロバティックに用いる」
ことで対処するしか解く術を持たない訳です。

もっとも、その方が楽に解ける場合は、中学以降においても大いに活用してほしい手法ではあります。

しかし、与条件が複雑化すればするほど、まずは
「方程式(or不等式)を立てる」
ことからスタートすることが大切になってくるのです。

ここで、もし「受験算数的な考え方」から脱却できずにいると、「数学」での躓きが始まってしまうのです…



https://mcafejr2.hatenablog.com/entry/2021/05/07/110018